2009/12/27 本年を終えて

 更新が遅れましたが、平成21年12月2日(水)〜6日(日)の日程で行われました第61回全日本大学バスケットボール選手権大会(男子)は東海大学九州に98対84で勝ち進みましたが、ベスト8をかけた中央大学戦で、74対84で敗退しベスト16という結果に終わりました。
 来年1月1日に、第85回天皇杯・第76回皇后杯全日本総合バスケットボール選手権大会で新生紙パルプ商事と対戦する予定です。ご声援、よろしくお願いいたします。

 浜松大学バスケ部に所属し、男子部のコーチを3年、そして女子のコーチを6年と、来年ではや10年目を迎えようとしている。今シーズンはバスケットボールのコーチとして多くを考える良い機会の年であり、またアシスタントコーチとしては、男子バスケ部員との関わり合い、ホームページ・掲示板のあり方を問われる年でもあった。特にホームページの関わり方は変遷時期・世代交代がきたのではないかと感じる。
 明後日より地元に帰省ということで、最後の更新となる予定であろう。変わらぬ温かい応援をして頂いた皆様方に深く感謝したい。

 性差を考慮したコーチング?
 バスケットボールに限らずスポーツ全般において技術向上のための練習内容やトレーニング方法、またチームの戦略・戦術的な視点からの書籍や研究論文は数多く見られる。しかし、その中で男女の性別に焦点をあてた研究は数少ない。
尚、本研究課題に関しては、女子と男子の優劣を論じているのではなく、性差の観点からスポーツ指導、特にバスケットボールを考察しており、また今回は先般の性差の意見から発展した先行研究であることを再度お断りしておく。性差の学問分野としては、人間科学の分野はもとより、社会心理学(対人コミュニケーション)、脳科学、哲学、教育工学などの分野で多くの研究実績が残されていることを記す。
 女と男。山内(2004)らは、「女性、男性、女、男、女子、男子、雌、雄、卵子、精子、X、Y、人間がつくりだしたことばのもつ意味は、国や地方や教育や、個人や時代でさまざまな異なりと広がりをもつ」とした。
 女と男の異性間の対人コミュニケーションは複雑な要素を含むことがとても多い。良好な関係である時はまったくと言って良いほど問題ないが、ひとつのきっかけにより異性との対人関係が悪化することは多々見受けられる。受けて側は原因不明のためどのように行動すれば最善な方法なのかが分からなり、最悪な場合は修復不可能な状態に陥る。
(本趣旨とは少し離れ余談となるが、特に恋愛などの場合、女子はアガペーの要素が強いため、求めているコミュニケーションと違う行動・言動をする男性に対する不信感を募らせる要因となる。またフィッシャー博士によると、恋愛初期には相手に夢中になり、相手の欠点を肯定的に捉え、否定的な部分を抑え込む脳の仕組みがあることも分かっており、その恋の仕組みも12ヶ月〜18ヶ月が限界ということを述べている)
 また、近年、脳科学の発達により、脳の機能的な部分で女子と男子の考え方や行動に差が存在することが明らかになっている。例えば茂木(2009)「脳は0.1秒で恋をする」の中で、女性と男性との間には共感能力の差があり、女性は脳の共感回路が強靭である、としている。この中で茂木は、「(男性は)社会の中で出世していくためには、状況に応じて共感回路を切らなくてはならない場合もある」とし「出世というものは、共感とはまったく別のベクトルで、有限の椅子を競争し奪い取る行動に共感回路が必要ない」としている。
 その点、女性は「共感回路を強めていく能力が求められた」としている。「子供を産み育て、家庭を切り盛りし、隣近所の人と仲良く共同生活を運営している」大切さを理解しているのである。また「女性は人の心を推測して共感することもできるし、じっくりと他人の話を聞いて問題を一緒に考えようとすることも得意」としている。つまり、女性は、男性に比べて人の心を読み、共感することができるため、男性の意図と外れた言動や行動に対してストレスを感じることが多いと考えられる。
 これは人間の祖先、アフリカの大地で暮らしていたころの遠い昔の進化論と関係しているとされている。奥村・水野・高間(2009)らは、「だから、男と女はすれ違う」の中で、地図研究の専門家のデボラ・ソーシャー博士を紹介している。
その中で、ソーシャー博士は「私たち祖先がアフリカの大地で暮らしていた頃の話だ。当時は食料の調達を狩猟採集に頼る生活で、男たちは狩り、女たちは木の実の採集を行っていた。この暮らしが、男女の得意な能力の違いに大いに関係している」としている。当時、狩りを得意としていた男は、広大な自然の中で獲物を獲得するために集団の中で競い合っていた。つまり大きな獲物を採って食料を調達し家族を守る強い男が女に求められたのである。男性が競い合う環境の中で意欲が高まるのは、遠い祖先から受け継いだ特性と述べている。
 対して女は、男が狩に出て不在の間に、子孫を産み、そして育て、家庭(もしくは村)を守ってきたのである。生き抜くために女同士で色々なそして様々な情報を交換し、家庭・村を守ることが主な仕事であった。つまり、女同士の仲間の間で協調し合うことが情報を得る手段であり、その情報から自分の家族を守り生活していたのである。でも現代でも女性の方が男性よりも友人同士で話をすることが多いとされている理由もここに理由があるのでないか、と考える。
奥村(2009)らは「アメリカの公立学校で今、男女別クラスを導入する学校が増えている」とし、「男女の違いを意識することが子どもたちの学力を伸ばす手助けになるかもしれない」としている。教師の教え方も特徴的だとしている。男子生徒とのコミュニケーションは常に命令口調で、指導者が誰なのか分かるようにしている、という。「男子は、競い合いながら学ばせると、勉強に対するやる気が増す」という。対して、女子のクラスではまったく逆で、「互いを競わせるようなやり方はとらず、どちらかというと仲間と共同で考えさせる授業が多い」そうである。スポーツ指導と筆記科目の授業とでは、教育工学上、違いがあるのは明確であるが、しかし授業展開の方法としては考慮すべき大きな点である可能性がある。
 このような背景のもと、経験則上、女子部員の方が具体的なコミュニケーションを重要視している傾向にある。戦術に関してもこと細かく説明をする必要があり、多くのことに関して理論武装することが要求される。
また通常(コーチに対する恐怖心などがない場合)、仲間同士の1オン1などの個人一人ひとりの勝ち負けがハッキリしているメニューに対して、女子は男子よりも避ける傾向にある。また、女子の勝者は敗者に対して優しく接し、あたかもその勝負がなかったような状態となる。練習後の自主練習などを観察していても、1オン1で何度も勝負を挑みワイワイと騒いでいる男子学生の隣のコートで、黙々と真剣にシューティングをする女子部員の光景は良く見かける。
当然のことではあるが、上記を立証する為には科学的な立場からの仮説検定や多変量解析などのアプローチも必要であろう。

 文献や先行研究で性差について述べたが、さて本題で、これらの性差をどうバスケットボールのコーチングに生かすのか?

 ある助言者は「女子は厳しくした方が良い」と言い、またある助言者は「女子は褒めて優しく接したほうが良い」とアドバイスを頂く。会話をしている人達に全く迷いがないところが面白い。それぞれが自らの成功事例に基づき話をしており、どちらも正解というのが正しい答えであろう。

 今の小生の来シーズンの考えるアプローチとしては、この中間(比率としては「厳しさ:優しさ≒6:4≒7:3?」かもしれないが…)と言った所であろう。一気に駆け上がるにはまだ若いチームである。しかし、若さゆえに可能性も大きくあると信じている。

 オフ前のミーティングで女子部員には伝えたが、来年から東海1部のチームと対戦する我々にとって、この春までの間はまさに試練の時であり、この3ヶ月で勝負は決まると考えている。プレーヤーとの会話の中で、途轍もない実力差のある強敵と対戦し惨敗することを「○○のチームに殺される」と表現することがある(ここでの表現はあくまで口語での表現であり、野球などのスポーツにも表現されていることをお断りしておく)。
 身体的・肉体的のみならず精神的な面のいても更なるレベルアップし、コーチ・プレーヤー自身が自ら邁進し考えなければ、まさに来年のリーグ戦は「公開処刑」となる可能性が高い。特に体作りに関しては、コーチと選手との間に溝ができぬようにしなければならない。つまり、無意味な走りこみも、無意味な筋トレも、そして無意味なストレッチも反転現象から言えば意味あるものに変わるのである。どのチームにもトッププレーヤーがおり、そのトッププレーヤーがしのぎを削って猛練習している中で、ランブラーズの羊達が成長してくれるのか、この上ない楽しみである。


 来年でバスケットボールのコーチとして10年目。
 「負ける」ことに対する強い恐怖と新たに生み出された重責の中、今まで数多くの感動を与えてくれている部員達に出会えたことを深く感謝し、本年度最後の備忘録を書き終える。

参考文献
1. 山内 兄人(2004)、女と男の人間科学、早稲田大学人間総合研究センター、p@
2. 茂木 健一郎(2009)、脳は0.1秒で恋をする、PHP研究所、p34-38
3. 渋谷 昌三(2008)、男と女の心理学、株式会社西東社、p161-162
4. 奥村 康一、水野 重理、高間 大介(2009)、だから、男と女はすれ違う NHKスペシャル取材班 〜最新科学が解き明かす「性」の謎〜、p53-p57
マイケル・グリアン(2005)、だからすれ違う女心と男脳、講談社